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■宇宙巡光艦ノースポール 第4章.金星 [補足] 賭けの行方 今から約46億年前。 ずっと後に私たち地球人類も誕生することになるこの大宇宙には、驚くべきことに、既に、銀河の星々の海を自由に旅する能力を得た異星人が存在していました。 その異星人の宇宙船が、とある惑星に立ち寄りました。 「第3惑星の周回軌道に入りました。」 操縦士が報告しました。 「了解だ。各チーム、観測を開始してくれ。」 宇宙船のブリッジ内で、最も体格の良い人物が命令しました。この宇宙船は、広い宇宙空間を旅しながら、発見した星々を調査する科学調査船なのです。 原始的な、やっと火を使い始めたばかりの人類の住む星を調査したこともありました。またある時は、その星の上に住む人類同士で大きな戦争をしている星を発見したこともあります。また別の時には、彼等自身と同じように宇宙を旅しながら発見した星々を調査している別の異星人と出会ったこともありました。 そして今、彼等は、まだ誕生して間もない、非常に若い惑星系を発見して、探査しているのです。惑星自体がまだ生まれたばかりですから、生命もまだ誕生していません。 「どうかされましたか?」 先程の体格の良い乗組員が、ブリッジの中央のシートに座る人物に話しかけました。体格的にはかなりスマートで小柄、年齢はやや上の人物のようです。ブリッジ左舷の窓の外に浮かぶ、まだ産声を上げたばかりの惑星を見つめています。 「いや、なにか嬉しくなってな。」 その、シートに座る人物は、静かに、笑みを浮かべています。 「嬉しい?」 体格の良い乗組員はシートの横に立ったまま尋ね返しました。座っている人物は膝の上に開いていた資料を閉じると、横に立つ乗組員に答えました。 「そうだ。今はまだ真っ赤なマグマの塊のような星だが、これがいずれは我々の故郷のような惑星へと成長するのだ。海があって陸も山もある自然豊かな惑星にだ。」 確かに、その左舷に浮かぶ惑星は真っ赤に燃える溶岩に覆われていました。まだ彼等自身の知識でも、惑星の成長過程は完全に解明されているわけではありませんでした。その、まだ未解明の部分を埋めて、既に分かっている部分についても新たなデータにより補足していくことが、彼等の取り組んでいる任務なのです。 体格の良い乗組員が説明しました。 「確かに、先週調査した第2惑星も、先程調査を始めた、この第3惑星も、将来、人類のような高度な生命体が現れる可能性が高いとされています。第4惑星も同様に期待する声が大きいのですが、サイズが小さく、質量も小さいという点を危惧する声も多く上がっています。もっとも、第2惑星も第3惑星も将来どうなるかは誰も予想できませんが。」 例えば、私たちのような生命体が生きて行くためには、十分な量の液体の水が必要です。もしも惑星が、その惑星系の中心の恒星に近すぎる場合には表面の温度が高くなり、水は蒸発して水蒸気になってしまいます。 逆に、中心の恒星から遠すぎると惑星表面の温度は低くなり、水は固体、すなわち、氷としてしか存在できなくなるかもしれません。 つまり、水の観点で考えるとしたら、惑星表面の温度がゼロ℃よりも高くて、100℃よりも低くなければ、私たち人間のような生命体が生存することは出来ないのです。まあ、惑星表面の気温が80℃や90℃もあったら、液体の水は存在できたとしても、私たち人間が生存できませんが。 「うん、そうだな。しかし、楽しみだとは思わないか?」 シートに座る人物が逆に尋ねました。 「お考えは分かりますが。」 やや答えに困っている体格の良い人物に対してシートに座る人物が別の質問をしました。 「どうだ、副長、」 「何でしょうか?」 この体格の良い人物は、どうやらこの宇宙船の副長のようです。とすると、シートに座る人物は、この副長の上司のようですので、この調査船の船長なのでしょうか。 「賭けをしないか?」 予想外の提案に、副長は驚きの笑顔を浮かべました。しかし、賭け、すなわち、ギャンブルは嫌いではありませんでした。 副長は興味津々の表情で船長に尋ねました。 「と言いますと?」 副長が知る限り、自分の上司である船長は非常に真面目な人物でした。その船長がどんな賭けを持ちかけようとしているのでしょうか。非常に興味を持った副長は、耳をそばだてるように船長の返事を待ちました。 「現在調査しているこの惑星系の第2惑星と第3惑星のどちらに、我々人間のような高度な生命体が誕生するかどうか、賭けようじゃないか。」 副長は驚きました。そんなことを賭けにするなど聞いたこともなかったのです。 「面白いですね。でも、私達は賭けの結果を知ることができません。」 そうです。あまりにも希有壮大な賭けです。 「そうだな。結果が分かるまで30億年か40億年か。もしかすると50億年かかるかもしれない。どうする? やめるかね?」 途方もない、桁違いに壮大な賭けです。いえ、もはや、ロマンと呼ぶ方が正しいかもしれません。副長は大いに興味を持ちました。この真面目の塊のような船長が時おり見せる、お茶目とも言える性格を、副長は気に入っていたのです。 「いえ、やりましょう。」 副長はとびきり大真面目に答えました。しかし、顔は満面の笑顔です。 「掛け金はどうしますか?」 大いに関心のある事柄です。それに対して船長が答えました。 「勝った方が10万バルでどうだね?」 副長が鋭い笑みを浮かべました。それほど高額ではありませんが、でも、それだけもらえれば、ちょっと贅沢が出来そうです。 「いいでしょう。」 両者、対戦の様相です。 「よし。それで君はどちらに賭けるね?」 船長はまるで子供のような無邪気な表情を浮かべながら、しかし、大真面目に尋ねました。 副長は考えました。 もちろん、自分も船長もこの賭けの掛け金を手にすることはありません。しかし、これは今までに経験したことのない真剣勝負だと感じたのです。ことによると、ギャンブル史上に燦然と刻まれる名勝負になるかもしれません。 副長は、決めました。ボンと膝を打つと胸を張ってベットしました。 「私は先週観測した第2惑星に賭けます。」 「理由は?」 すかさず、船長が尋ねました。 「第2惑星の方が太陽に近いですからね。暖かい光と熱を余すことなく使うことができます。」 「なるほど。その通りだな。」 確かに、一理あります。 「では、船長も第2惑星に?」 副長がいたずらっ子のような、しかし、純朴な眼差しで尋ねました。まあ、しかし、ここで船長も第2惑星に賭けたら、賭けにならないわけですが。 「いや、私は、今見ている第3惑星に賭けよう。」 船長も堂々とベットしました。副長は素直に感心した表情になりました。 「ほお、勝負に出ましたか?」 副長、のってきました。ちょっと挑戦的な目で船長に問いかけました。 「いやいや、そんなつもりはないが、第2惑星は少々暑すぎるのではないかと思うのだ。第3惑星の方が太陽からは遠いが、適度な暖かさを保てるように思うのだ。」 なるほど、こちらも一理あります。 いずれにしても、これで賭けは成立です。副長が笑顔で尋ねました。 「なるほど。それで勝負の結果は?」 「はっはっはっ、40億年後、かな。」 そうですよね。宇宙の営みは悠久なのです。それに比べたら私達人類の一生など、ほんの一瞬なのです。 「その時にも、また、こうして2人で訪れることができるように祈りましょう。」 「そうだな。」 副長の提案に、船長も笑顔で約束しました。 んー、もちろん、無理だとは思いますが、まさにロマンではあります。 「その時には掛け金のご用意もお忘れなく。」 「ハッハッハッ、覚えておくよ。」 うーん、お金の話になると、一気に世俗っぽくなってしまいますね。 ちなみに、その後、船長と副長がそれぞれ5万バルずつ出して、合計10万バルが、この賭けのために用意された専用の口座に振り込まれたのです。 もちろん、賭けに勝てば、この10万バルを手にすることが出来るのですが。 それは、40億年後のお楽しみ。 これは確かに壮大な賭けです。 賭けの結果を待つ船長と副長の指揮する調査船は、この若い惑星系の調査を終えると、次なる発見に向けて、再び、宇宙の海原へと旅立って行ったのでした。 時間は流れました。 悠久の宇宙と言えども、時間が停止しているわけではありません。私たち人類にとっては途方もなくゆっくりとした、ゆったりとした流れではありますが、星々の海でも時間は流れて、そして、その流れの中で変化が起きているのです。 あの、船長と副長が、ギャンブル史に残る賭けを行ってから、既に40億年という気の遠くなる年月が経っていました。 私たちの生きる天の川銀河の、まだ比較的若い惑星の周回軌道上に10隻ほどで構成された宇宙船団が待機していました。先頭にいるやや大型の船がこの船団を指揮する司令船のようです。 「この惑星に関する伝説を知ってるかしら?」 司令船のブリッジ中央に置かれたキャプテンシートに座るこの船の船長は女性です。そして、この、不思議な質問を投げかけられた副長は、その船長よりも年齢的にはだいぶ上のようです。髪の毛にも白い物が目立ちます。しかし、身なりはきちんとしていて、姿勢も正していて、紳士と呼んで差し支えない人物です。 「もしかして、史上最大のロマンの件ですか?」 「ロマン?」 船長は聞き返しながら微笑みました。 「確かに男性にとってはロマンなのかもしれないわね。」 「もちろんです。何しろ、結果が分かるのが40億年以上先の未来という壮大な賭けが行われたのですから。」 当然、あの時の船長と副長はもうとっくに人生を全うしてこの世を去っていました。繰り返しになりますが、あれから40億年もの時が流れているのです。 「そうね。その、ロマンに満ちた賭けに、おそらく、私たちが決着を付けることになるかもしれないのだから、心して掛からないといけないわね。」 この船長と副長が指揮する宇宙船団は、惑星環境保全委員会という組織に所属しています。主に、天変地異のような大規模な天災によって消え去ろうとしている、惑星上の動植物などの自然環境を、保存して、後世に残す活動を行っている組織なのです。 「この第2惑星は一時的には豊かな植物群が繁殖する穏やかな自然環境が形作られ始めたけれど、惑星全体の温暖化が解消するまでには至らなかったのよ。ここ数千年で、植物の生い茂る森は半分以下に減少。このまま進めばせっかくこの宇宙に誕生した、この惑星に固有の植物達は完全に消滅することが確実になったのよ。」 「それで、私たちの出番となったわけですね。」 そう。ここ第2惑星上に、第2惑星の植物を集めて保存するための巨大な『箱庭』を建設するのです。その内部は、植物の生存に適した環境に維持されて、万が一、箱庭の外の環境が悪化しても、植物は今後永きに渡り生存が可能となるのです。 「そうなると、賭けの行方はどうなるのでしょうか。」 「それを今、政府で検討していて、結論は私たちの委員会の本部から連絡があるはずよ。もう、連絡があってもいい頃なのだけど。」 そうなのです。いま彼等の宇宙船団が巡っているのは、遙か昔に賭けの対象となったうちのひとつの星、第2惑星。古の時代に副長が賭けた星なのです。 「我々がここ第2惑星に来たということは、もう一つ外側を巡る第3惑星に賭けた船長の勝ちとなるわけですね。」 「それも微妙な状況ね。賭けの内容は『第2惑星と第3惑星のどちらに人類のような高度な生命が誕生するか』だったのよ。でも、今時点では、第3惑星にもまだ高度な生命体は生まれていないのよね。」 今いる第2惑星よりもひとつ外側の軌道を巡る第3惑星。この惑星も陸上には多くの植物が繁殖していて、植物以外の、原始的なハ虫類、昆虫などが次々に水中から陸上へと活動の場を広げ始めていました。惑星全体の環境も生物が生存できるレベルで安定していて人類のような高度な生命体の誕生も期待できる状況なのでした。 「なるほど。となると、政府が賭けを継続してくれれば、これからの第3惑星の進化の具合によっては、古の船長の勝ちもあるわけですね。」 「そうね、政府がどう判断するのか、もう少し待ってみましょうか。」 副長はブリッジを退出すると船内のチェックに出ました。機関室の状況確認、カーゴルームに積んである装備の確認、その他にも細々とした作業が副長の任務として割り当てられていました。 「副長、至急、ブリッジへ。」 突然、船内放送で、船長に呼ばれました。きっと委員会から連絡が届いたに違いありません。副長は小走りでブリッジに向かいました。 「ごめんなさい、忙しいところ呼び出してしまって。」 船長は笑顔です。副長はその続きのことばを期待しました。 「良い知らせね。政府は賭けを継続させるそうよ。」 副長も笑顔になりました。40億年続いているロマンが、まだこれからも続くのです。 「それは良かった。遠い子孫達に、よいプレゼントになりますね。」 果たして、賭けの結果が判明した時に、その時代の子孫はどのように思うのでしょうか。しかもそれは、第3惑星の進化に期待する判断でもあるのです。 「第3惑星の未来に期待しましょう。」 船長のことばに、副長が大きく頷きました。 「それで、第2惑星での作業開始の指示も届いたわ。各チームに指示を出してもらえるかしら?」 副長は満面の笑みを浮かべて答えました。 「喜んで。」 こうして、宇宙船団は、第2惑星の植物を保存する箱庭の建設作業を始めたのでした。一部の作業船は第2惑星の建設場所に降下、早速、基礎工事を開始します。工場船は建設用の資材の生産を開始しました。箱庭は巨大な施設ですが、建設方法は確立されているので、手順通りに実行していくだけです。 こうして作業は続けられました。 「船長、」 船長室で報告書を書いていると副長が入って来ました。 「何かしら?」 「はい、そろそろ、メッセージの撮影をした方が良いかと思うのですが。」 船長はキーボードを叩く手を止めると副長を見ました。 「もう、そういう時期かしら。」 「はい。」 箱庭が完成したら、その惑星からは去るのです。箱庭は完全に無人で運用されるのです。その代わりに、後からその惑星を訪れて、箱庭を見つけた訪問者に向けたメッセージを残すのです。 「そうね、じゃあ、撮影しましょうか。」 この作業も撮影自体はもう何度も繰り返されていました。もちろん、肝心のメッセージの内容はそれぞれの惑星ごとに変えています。 「ならば、P3にも来てもらって。」 ちなみに『ピー・スリー』と読むようです。 副長が艦長室に連れてきたのはロボットのようです。しかも、4本足で歩く犬のようなロボット、ロボット犬とても呼ぶのでしょうか。 「マウマウッ!」 あ、艦長室に入るなり、艦長の足下に行ってじゃれています。 「よしよし、いい子ねえ。」 艦長が頭を撫でてあげてます。かわいい。尻尾を振ってます。 「はい、じゃあ、ここで座っててね。」 船長はP3を自分の足下に座らせました。 「よろしいですか?」 カメラをセットしていた副長が尋ねました。 「いつでもいいわよ。」 「では開始します。」 船長と副長は並んで立ち、撮影が始まりました。 まず、船長が話し始めました。 「私の名はモリワ・セロット。惑星モロッソの惑星環境保全委員会所属の工作司令船メリーサの船長です。こちらが副長のミセル・ムロット。私と共に本船と工作船団、そして、これから説明する建設作業を指揮しています。 いま私たちの工作作業船団は、ここ、銀河座標2837-5647に位置するF713惑星系の第2惑星周回軌道上にいます。誕生してからおよそ40億年、まだ比較的若い惑星です。」 ここで、話す担当を交代します。副長がいつもの穏やかな声で話し始めました。 「この惑星は初期には海や陸地が形成されて植物が誕生、森林の形成も始まりましたが、惑星自体の温室効果が収まらず、せっかくこの第2惑星上に誕生して進化を始めた植物達も、近い将来、確実に消滅する状況となっています。 私たちは、このような状況で消滅する動植物を後の世に伝えるために保存する活動を行っているのです。具体的には、保存を開始する時点の動植物の置かれている自然環境を再現した、私たちが『箱庭』と呼んでいる設備を建設して、その箱庭にできる限り多くの種類の動植物を収容します。なお、箱庭の環境は閉鎖環境ですので、建設後に外部の環境が悪化したとしても、内部の環境は変化することなく維持されます。 なお、ここ第2惑星には動物は生まれませんでしたので、植物のみの収容となります。 既に、第2惑星上での箱庭の建設作業は開始されています。現在の進捗は約7割。2週間後から植物の搬入作業が開始されて、2ヶ月後には設備としては完成。その後、1ヶ月間稼働状況を確認して問題がなければ、ここ、第2惑星での作業は終了となり、私たちもこの場を去り、次の作業対象の惑星に向かうことになります。」 再度、話し手が船長に代わります。 「なお、私たちの本来の活動からは離れますが、この第2惑星に関わるトピックをお伝えしておきたいと思います。いまから遥か40億年前に、この地を訪れた科学調査船の船長と副長が、第2惑星に関わる壮大な賭けを行っているのです。賭けの内容は、『ここ第2惑星と、ひとつ外側の第3惑星のどちらに、私達人類のような高度な生命体が誕生するか』です。残念ながら、第2惑星は、1度は誕生した植物も近い将来消滅するのが確実であり、より高度な生命体が誕生することは困難な状況となっています。 一方、第3惑星ですが、私たちの調査によれば、陸上にも多くの植物が繁殖していて、植物以外の原始的なハ虫類や昆虫などが徐々に水中から陸上へと活動の場を広げています。また、惑星全体の環境も生命の生存に適した状態で安定しており、このまま順調に進化が進めば、人類の誕生も期待できると予想しています。その時に、私たちの遠い子孫がこの惑星系を訪れて、賭けの結果を確認することができるかどうかはわかりませんが、できることなら、人類を含めて多くの生物が平和に生存する世界になっていて欲しいと期待しています。 以上が私たちからお伝えしたいメッセージとなります。 それでは、みなさんと、そして、この宇宙に生きるすべての生命にとって平和な時が続きますように。」 船長と副長は右の手の平を前に見せるとその手を胸に当てて目を閉じて少しだけ俯きました。これが彼等が、別れに際して相手の平和な未来を祈る時にとる姿勢なのです。 撮影は終了しました。あとは、箱庭の建設場所である第2惑星と、今回、彼等が語り継いできた伝説の賭けに関係して紹介した第3惑星の映像を挿入すればメッセージは完成です。 「あとはお願いできるかしら?」 「はい、もちろんです。」 「では、お願い。」 こうして、彼等のメッセージと共に、箱庭は第2惑星上に残されたのでした。 さらに、時間は流れました。 西暦2055年1月13日。 地球、日本。 「金星の衛星を見つけたかと思ったら、今度は異星人の物と思われる施設の発見ですか。」 さすがの古淵総理も驚きの表情です。 「ノースポールから届いたレポートの通り、日高基地としても、悪意を持った異星人ではなさそうだという判断をしています。」 ディスプレイの中で、布田教授はことばを選びながら慎重に報告しました。 「うん、送ってもらった資料と映像は政府でも見させてもらってます。見解はそちらと同じです。」 古淵さんをはじめ、政治家のみなさんのご苦労はお察しします。何しろ、荒唐無稽という言葉をも突き抜ける、とんでもない事態になっているのですから。聞くところによると、ノースポールの出現以降の出来事に付いて行くことが出来なくなり、政治家を引退する方も出ているとか。それだけ、従来の私たちの理解を飛び越えた、とんでもない事態になっているのです。 「この情報は、政府から、アメリカや他の各国にも提供します。もちろん、マスコミにも。」 「分かりました。こちらでも問合せ対応の体制を強化します。」 ノースポールの出現後、マスコミ各社は大忙しなのです。どれだけ食いついても、出て来る話題が絶えないのです。ノースポール・プロジェクトとしても、事実を隠さず報告することを基本に、誤解のないように正しく報道してもらうことが出来るように手厚い対応を行っているのです。 「あと、ガーランド大統領から連絡がありました。」 「日高基地にも届きました。国連との連携の件ですね。」 現在私たちが直面している事態に対応するためには、世界中の国々と協力する必要があるのです。そのためには、国連の協力は必須なのです。しかも、具体的な内容はこれから検討するのですが、世界を、地球を代表する統一政府を作る構想もあるのです。もしもその案が現実化した場合は国連を中心として、すべての国が集まるのが妥当ではないかと考えられているのです。そのため、ガーランド大統領が精力的に国連に働きかけていたのです。 「宇宙開発委員会という国連事務総長直轄の組織が国連側の窓口になるそうです。」 「委員長は、ラジーブ・シンという方だと聞いています。」 「うん。早急に会談を開けるようにガーランド大統領が調整してくれているよ。」 地球でも様々な人達が活動してくれているようです。そして、大きな動きが始まろうとしているのです。 「ところで、堀之内さん、」 古淵さん、日高基地との連絡が終わると、デスクの横のゲスト用シートに座っている、日本いっしょの会党首の堀之内さんに尋ねました。 「何ですかな?」 古淵さんの表情が途端に子供の表情になりました。 「賭けをしませんか?」 「えっ、」 堀之内さん、古淵さんの突然の提案に一瞬、言葉が詰まりました。 「どんな、賭けですかな?」 なんとか、古淵さんに尋ねました。 「この、金星の施設を作ったと思われる異星人に私たちが出会うことがあるかどうか、というのはどうですか?」 「ふーむ。」 堀之内さん、考え込んでしまいました。しかし、意を決したように、膝をぽんと叩くと胸を張って堂々と答えました。 「時期は分かりませんが、いずれ会う時が来る。必ず来る。」 おお、堂々たるベットです。 「はっはっはっ。そうですね。私も同感です。」 古淵さん、笑顔で答えました。さらにことばを続けます。 「金星にあれだけの施設を作った異星人だ。そのひとつ外側に位置する地球の存在を知らないはずないです。いずれ、必ず会うことになるでしょう。うん。もしかしたら、明日辺り来るかもしれないですよ。もちろん、アポなしですか。」 古淵さんが、ちょっと、いたずらっ子っぽい表情で堀之内さんを見つめました。 「うーむ。」 堀之内さん、その古淵さんに圧倒されましたが負けじと、頑張って涼しい顔をして答えました。 「うん、あしたなら予定は空いてるからな。いつでも呼んでくれ。」 しばしの沈黙の後、2人は大声を出して豪快に笑いました。 賭けの方は、成立しなかったようですね。2人とも同じ意見なのでした。 こうして、地球でも、これまでの考え方や体勢を変えていく動きが確実に始まっているのでした。 閑話休題
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■更新履歴 2023/04/23 登録